現実入門/穂村弘
43歳このかた、ふつうの人が経験しているであろうことをせずに毎日を送ってきた著者が温泉センターに行ったり、合コンに参加してみる。
田中康夫の「なんとなくクリスタル」から始まる現実感のなさの延長版のような感じもしないこともない。
離人症というなにをやってもほんとのような気がしないという感じがあるが、または、それに似た感覚のようなものを彷彿とさせるような作者のありようだ。
本人は大まじめにことに取り組んでいるのだが、当たり前のことが当たり前じゃないことに思えてくるというところに、不思議な齟齬が生まれてくる。
子供たちの間でゲームが大流行りになって久しいのだが、その影響もあってか、一度死んでもリセットすれば生き返るとすんなり信じてる、いや、当たり前と思ってるこどもが存在する。
これもまた、リアル感の喪失なのではと思える。
この現実感というもの、この必死な感じの五官でもって感じる生きてる実感みたいなものが、最近、希薄になりつつあるのではないかという気もする。
世の中、淡白になり、うすくなり、ゆらゆらして、どうでもよいようなアバウト感覚ばかりになり、そのうち、生きてるのか死んでるのかわからくなって、ぼうっとした人間ばかりになるなんてことになりゃせん?
なんて、これ、読みながら、思ったものです。
一風変わったという形容詞が当てはまるなら、まだしも、これがふつうじゃないものがふつうになりかわりそうな気配にふと、気が遠くなりかけます。
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